日課なんですけど,『5時に夢中!』見てたら,岩下尚史氏が昨今の日本語の乱れについて,「昔と比べたら,今の『正しいとされる日本語』だって…」っていってました。完全に同意です。
だって,「古典」とか「古文」とかいう科目があるくらいですもんね。岩下氏が指摘したのは,特に過去を意味する助動詞のことでした。確かに,古文は時制でちょっと苦労した記憶がありますから,筆者が今,ちょっと「?」って思う日本語も,いつかスタンダードになることでしょう。単純に,筆者が「おっさん」になってるだけでしょうね。「最近の若い者は…」感覚かもしれません。こんな筆者が若い頃には,筆者が「最近の若い者は…」っていわれてたはずなんですけどね。
こんな風に,変わっていくものもあるんでしょう。ですんで,いい加減,「和式」の「サウスポーとやるときには左に回れ」っていう「古典」も,疑うべきでしょうに。
『WOWOWエキサイトマッチ』でサウスポーだった西岡利晃選手が,「サウスポーのMarvin HaglerとやったときのRay Leonardは右に回ってましたね」みたいなことをいってました。そうそう,そんな昔,大昔(1987年)から,「和式」は国際的なスタンダードではなくなってるにも関わらず,今も日本は「和式」で「古典」を追い続けてるんですよ。
個々のパンチの射程範囲,有効範囲,ってものは,考えないんでしょうか? それを考えれば,右構えが左に動いたら,右側に強い右クロスを打てない,って,わかりそうなもんでしょ。初歩の初歩ですよ。「鉛筆のもち方」レベル。幼稚園や保育園に入る以前に憶えるべきことでしょうに。
と思ってたら,Mike Reedがついに倒されました。サウスポーのReedがです。報道で見て,試合の動画を視聴したところ,しつこく強烈な左の腹打ちで仕留められてました。
ReedはTerence Crawfordの後継者候補としてTop Rank社が期待して売り出してた選手。『WOWOWエキサイトマッチ』でも放送されてましたんで,御存知の方も少なくないことでしょう。が,倒されて負けました。初黒星。放送されるかは謎ですけど,倒して勝ったJosé Carlos Ramírezは,逆にこれから注目されるんでしょうかね。
見たら,このRamírezも全勝のようですから,憶えといたほうがいいかもしれません。あ,「Ramírez」って姓は,御覧のようにアクセント記号がついてますんで,カナで書くなら「ラミーレス」みたいになります。決して頭アクセントの「ラミレス」ではありません。もしかしたら,本人にも通じないかもしれませんから,正しい音で発語しましょう。「ラミーレス」です。
アクセントっていえば,役者の「役所広司」さんは,頭アクセントで読むのが正しいんだそうで。御本人と喋ると,訂正されることもあるそうです。気をつけましょう。喋る機会なんて,たぶん,ないでしょうけどね。平坦に「やくしょ」っていいがちですけど,正しくは頭アクセントです。
話をRamírezに戻すと,Ramírezが打ち続けてた左フックの腹打ちは,特に角度に変化をつけたものではありませんでした。つまり,特別にサウスポー用として訓練したわけではない,ってこと。他の試合も見たんですが,どうやら普段から左の腹打ちを使ってる選手のようですから,「この試合用に」ってことではないんでしょうね。
で,このRamírezですけど,2012年のオリンピックにも出てる選手で,プロとしてはFreddie Roach氏がトレーナーを務めてるくらいですから,元々,有望株だったんでしょう。アマチュア歴は145勝11敗とのこと。Reedばっかりに注目してましたが,Ramírezも「勝って当然」くらいの選手でした。
イメージとしては,WBA126王者のLeo Santa Cruzみたいな感じでしょうか。長身で細身でありながら,かなり積極的な選手。ともに今はカリフォルニア州に住んでますから,そんなところも似てます。
感心しましたねぇ…。実によく訓練されてる選手です。特に,左の長さ合わせが絶妙なんですね。
構成は,わりと単純。ジャブで追って,ワン・ツーをぶつけて左フックへ,っていうパターン。でも,この3発目の左が,実に巧みなんです。
たぶん,ミットを受ける人が,ゲーム的に左手の位置を動かすんでしょうね。ワン・ツーを打てせて,次の左ミットの位置を「遠め」,「近め」,「高め」,「低め」,と。それで,その時々の左ミットの位置を把握して,的確に左フックを打ち込む,と。
「和式」の選手に,最も足りない訓練は,これかもしれません。強くて速い「3発」を打つ選手は少なくないんですけど,位置合わせが巧くないんですね。
「パパパーン!」と速く乾いた音を出させるのは,ミットを受ける側にとっても,わりと心地よいものだったりします。が,いつもいつも,同じ位置でしか構えなかったりするんですね。ですんで,速さと強さは向上するんですけど,長さ合わせ,位置合わせが向上しないんです。確かに,速く強く打てて,デカい音がしますから,打ってる側も受けてる側も充実感はありますよ。でも,悪い表現をすると,それは「自慰行為」。
が,Ramírezはそんな「3発目」の位置合わせが絶妙なんですね。ミットもちが,右手でワン・ツーを受ける,ってとこまでは共通。でも,「3発目」用の左手を,わりとヒジを伸ばし気味にしたり,ちょっと下がって構えたり,っていうように変化をつけてるんだと想像します。で,Ramírezはそこを打つ,と。
たまには空振りすることもありますし,笑うくらいに触れる程度の左のこともあるでしょう。が,繰り返し繰り返し訓練することで,「3発目」の的中率が上がるんですね。ヒジの角度とか,踏み込みの深さとかを,工夫する習慣がついてきます。
そりゃ,退屈ですよ。空振りでもしようもんなら,哀しくすらなるかもしれません。でも,結果として,「3発目」が巧くなっていきます。
浜田剛史氏が「空振りは倍,疲れるんですねぇ」ってなことをいいますけど,理由はいってない気がします。いや,実際,疲れるんですけどね。
空振りすると,「どこか」に当たった場合よりも,深く振っちゃうことになりますね。ですんで,戻りに大きな時間と労力を要するんです。時間がかかりますから,戻り瞬間にカウンターを食っちゃうこともありますんで,戻るときにはいつも以上に気も遣います。動作がデカくなりますから体力が要るのももちろんですけど,こうして,精神的にも疲れるんですね。
上で「どこか」って書きましたが,ホントに,どこでもいいんです。アゴや肝臓みたいな急所はもちろん,それこそ,腕の上でも可。どこでもいいから,当たりさえすれば,振り抜きすぎません。あ,硬いところを叩けば拳を傷めかねませんけどね。でも,日本ではそれも「強打の代償」扱いされますから,いいんでしょう。日本以外では確実にアウトですけど,日本ではなぜか評価されちゃいますもんね。
また,空振りすると「やっちゃた…」って思うんです。たぶん,これは万人共通でしょう。よほど図太い選手でも,「あら!」って思うはずです。
ですが,「和式」は決まった位置,決まった距離で「のみ」のコンボの訓練をしますから,現場では空振りも増えちゃうんですね。特に近間の訓練を「まったく」してませんから,例えば,ワン・ツーを振ったところに相手が前傾してきたら,3発目の左フックが空振りして首を巻いちゃいます。「3発目」の距離合わせを訓練してないんで,速いコンボは打てるものの,正確性が決定的に欠けちゃって,こうなります。空振りですから,体力的にも,精神的にも疲れます。
当たらない→疲れる→近づきゃ打たれる,と。短いパンチの訓練をしてないと,こんな悪循環に陥ります。
でも,Ramírezは違うんですね。「3発目」の位置合わせが実に巧いんです。
そんな丁寧さと巧さと絶妙さを,Ramírezに感じました。
そんなRamírezですから,サウスポーのReedに対しても,的確な左の腹打ちが打てたんですね。
似た感覚ですけど,右構えでいうところの右フックも,長さ合わせが重要です。
例えば,ふとした瞬間に相手の頭がぶつかるくらいに近くなることがありますね。そんなときに,短い右が打てますか? ってことです。右ヒジを上げて捻り込むように打つ,短い右が。
ロングの,ヒジが伸びるくらいの腕力を込めやすい長さの右クロスが強い選手は,掃いて捨てるほどいます。が,それは現場で使える右ではないんですね。現場で使うためには,長さ合わせ,位置合わせがきちんとできないとダメ。ほら,「和式」には少ない感じでしょ。
でもRamírezは,そんな退屈に感じられかねない訓練を,幼い頃から,繰り返し,行ってきたんでしょう。そして,アマチュアではオリンピックにまで行って(わりと簡単に負けたようですが),プロでもここまで全勝,と。
いやぁ,Ramírez,注目ですよ。特に「3発目」に御注目ください。実に巧い選手です。