いい加減に,美談にするのは,やめませんかね? 拳を傷めるのが,「強打の代償」だっていう美談を。あれは,硬いところを強打してしまった「悪い証拠」なんですから。
かつて,後のWBAスーパー・フライ級王者・鬼塚勝也選手が右拳を傷めたときに,それを隠していました。それは,相手の額を強打して傷めたからでした。つまり,恥ずかしかったんですね。拳を傷めるというのは,そういうこと,恥ずべきことなんです。実は。
例えばMike Tyson。彼は強打者として有名でしたけど,試合で拳を傷めて長いブランクをつくったことって,なかったでしょ? どんなにパンチが強くても,拳は壊しません。それをTysonは証明してくれました。
でも,そのTyson,路上でケンカして拳を傷めました。素手で顔面を叩いたからでした。硬いところを叩くと,拳って,簡単に壊れちゃうものなんです。
逆に,アゴや腹を叩いてる分には,どんなにパンチが強くとも,拳が負けることは,まず,ありません。
Tysonって,ヘビー級にしては気の毒なくらいに小柄だったでしょ? ですから,相手の側頭部や額を叩くケースが極めて稀で,アゴや腹をきちんと叩いていました。だからこそ,あれだけKOの山を築いたともいえますし,強打者だったにも関わらず拳を傷めなかった,ってわけです。
ところが,日本では拳を壊すと「強打の代償」みたいに,美談として語られちゃいますよねぇ? だからぁ,硬いところを叩いてるだけなんです,って。
ちょっと名前は伏せますけど,ちょいちょい拳を壊してた元世界王者のサウスポーが2人いますね。現役時代を思い出してください。この2選手とも,「とにかく速く強く」って感じでボッコボコと速いコンボを繰り出してましたねぇ。放送できない言葉にするなら,「メクラ打ち」ってヤツです。
そりゃ,側頭部や額といった,硬いところを叩くのも当然。その結果,拳を壊すのも当然です。
ところが,この国では拳を壊すことを美談扱いしますから,彼らは「強打の代償」って感じで語られてました。間違いですからね。硬いところを思いっきり叩いちゃっただけですから。
日本ではテンプル(こめかみ)を急所にカウントしますけど,国や地域によっては,この部位を急所としません。つまり,顔面の急所はアゴに限定されます。
これは,テンプルの近くに,側頭部や額といった,非常に硬い部位があるためです。
きっと,拳っていうのは,武器としてつくられたものではないんでしょう。武器だとしたら,簡単に壊れすぎます。
あるいは,頭部というのが,それだけ重要な部分,ということでしょうか? 額とか側頭部とかいう,脳を覆う部分は非常に硬くできてます。
これまた名前を伏せますけど,ある空手家が,晩年,異常なくらいに拳を鍛えてたそうですね。で,聞いた話で恐縮ですが,そのために,ほとんど握力がなくなっちゃってたんだそうで…。
結局のところ,硬いところを叩くとグローブを着用してても拳を壊しますし,拳を強化するにも限界がある,っていうことかと思われます。
これまた伝聞になっちゃいますけど,ボクシングと違って,足のあるキック(「キック・ボクシング」という競技を「キック」といって,蹴る行為を「キック」と表現することは「あり得ません」)は,いわゆる「Tバック」みたいに,股間にだけアルミ製のお椀みたいなものをつけて,あとはそこから出たヒモで縛るだけのものを着用します。
そんな状況で,あるキックの選手が,左の腹打ちを狙って,相手の腰の骨を強打しちゃったらしいんですね。ボクシングの防具は,腰の骨も覆ってるんですけど,キックのプロテクターは腰骨を覆ってませんから,叩き放題。その結果,そのキックの選手は,左拳を折っちゃったそうです。以後,涙目で闘い続けたとか…。
上記のようにボクシングでは腰の骨を叩くことは不可能ですけど,側頭部や額を叩くことはできます。すると,折れます。
あ,もちろん,折るためには,そこそこの強いパンチを,それなりの数,打ちつける必要はありますけどね。でも,そんな行為を繰り返すと,わりと簡単に折れます。
素手のケンカを思い浮かべるといいんでしょうかねぇ?
素手で顔面を叩くと,わりと簡単に拳なんて壊れます。もう,美談にするのは,やめませんかねぇ?
それでももし,テンプルを平気で急所として挙げるようなら,それは「無知」だと思っちゃっていいでしょう。あるいは,拳を壊すことを推奨してるか,でしょうね。