「射程範囲」という概念

ノーベル文学賞が決まりましたね。日本生まれながら,幼いときに渡英したんで,日本語はほぼできない,とか。いくつだか忘れましたけど,ノーベル文学賞に輝くためには,何ヶ国語だかに訳されてないとダメなんだそうですから,そう考えると,英語は有利なんでしょうか?

かつて大江健三郎氏がノーベル文学賞になったときに読んだことがありますけど,筆者の頭では理解困難でした。1つの名詞に5つ6つの形容詞がついてるのはザラ。無理でしたねぇ…。

あれを英訳した人の英語力に強く関心します。

話をボクシングに戻しましょう。

何でしょうか,あのザマは。『WOWOWエキサイトマッチ』のジョー小泉氏ですけどね。

「説明します」っていったのはいいものの,その説明がインチキ。アメリカのサウスポー選手がしばしば左に動くことを説明して,「左フック,左アッパーが打てるからなんですね」と。いやいや,左クロスも,左肩の内側(右)にしか強く打てませんから,サウスポーが右に動くほうが不自然なんです,って。

あの「説明します」って自信満々に語ったのは,バカすぎましたよ。いってみれば,クイズを出して,そもそもそのクイズが間違ってるような感じ。例えば,「日光』の県庁所在地はどこでしょうか?」みたいなもんです。

ね,「日光」って,そもそも都道府県じゃない,ってのは,誰もがわかることでしょ。U字工事さんや手島優さんだったら,怒り狂うかもしれません。でも,そんなふざけた,バカげた問題を真顔でいっちゃってるようなもんですよ。もちろん,答えられずにいると,勝ち誇ったようにしちゃう。いやいや,お前が違うんだ,って。答えられないほうが普通でしょうに。そんな感じ。

サウスポーが右に動く(繰り返しますと,これは「左回り」です。右に動くからって,決して「右回り」ではありません)ってのは,このセオリー,多分に「和式」なんですね。「和式」の古典。でも,日本ではこれが強く信じられちゃってるせいもあって,サウスポーが勝ちやすくなっちゃってます。

サウスポーに対して左に動くと,サウスポーが強い左クロスを打ち込みやすくなります。つまりは自殺行為なんですけど,これが強く信じられちゃってるんで,どんどんサウスポーに好都合になっていきます。

どうやら,世界的にも日本はサウスポーがトップに立つ確率が高いようですが,おそらくは,こんなところに原因があると思われます。サウスポーにとって勝ちやすい国なんですね,ここは。

知っておくべきなのは,「射程範囲」っていう概念です。

「射程距離」ではありません。「射程距離」だと,直線上の「1次元」なんですけど,パンチは,深さ,高さのある「2次元」,「3次元」なんで,「射程範囲」として捉える必要があります。また,これを知ってないと適切なミットの「受け」ができないはずなんですけど,あのオヤジは,その概念を知らないようです。知らずにどうやってミット受けるのか謎ですが,そんな国のようです。

「あれ」がトップ解説者ってことになってるんですからねぇ…。「あれ」が。スペイン語だって「あいうえお」がわかってないレベルですし,ボクシングにしても,手の指を折って足し算してるレベルですもんね。大学院を出てても,博士号をもってても,ダメなもんはダメです。博士号って,抽選でとれるものなんでしょうか? あるいは,20円くらいで買えるんでしょうか? 「剥奪」って,ないんでしょうか?

あんな「たわごと」で殿堂入りできるんですから,英語じゃない,ってことは,メリットなんでしょうね。だって,わかっちゃったら,ロクなこといってないのがバレバレですもん。どう考えたって殿堂入りできるレベルのこと喋ってないのに,わかんないから,殿堂入り,と。英語圏の英語しか通じない人に,「バカヤロー」っていうようなものかもしれません。カッコいいから,って,英語圏の黒人が「便所」ってタトゥー入れちゃってる感じかもしれません。

あとで図示するとして,まずは文字だけでの説明を試みます。あ,以下,右構えです。

まず,ジャブは左肩の正面と,内側,そして,「やや遠め」限定です。「内側」ですよ。

発射元である左肩の外側には,強いジャブを打てません。ですんで,右構え同士が向き合ってると,ちょっとずつ左方向に回っていきますね。それは,左肩よりも外に強いジャブを打てないんで,強く打てる左方向に動いていくためです。

で,「やや遠め」限定なのは,近いと,ついつい上体が反っちゃいかねないため。ジャブは体の回転が少ないせいで,わりと腕力が使える空間がないとダメなんですね。ですんで,ヒジが伸びるか伸びないか,っていうのが最短でしょうか。あとは,ステップ・インして当たるくらいの,わりと遠めがジャブの「射程範囲」になります。

じゃ「近かったら?」って思うことでしょう。

が,近かったら他のパンチに変えるべきで,近いのにジャブを打つべきではありません。ですんで,もしミットもちが短いジャブを打たせようとして左ミットを突き出して来たら,「何も打たない」か,「かまわずにガラ空きの顔面に強い右クロスを打ち込む」か,「下がって距離をとり直してジャブを打つ」か,の,どれかをやりましょう。あ,2番目のヤツは危険ですが,短いジャブを打たせようとするヤツが悪い,ってことで…。

次。

右クロスは,右肩の正面と,内側です。で,ロングもショートも打てないといけません。ここがジャブと違うところ。

ジャブは短きゃ別のパンチに変えるべきなんですけど,右クロスは短いのも打てないといけません。

最も近いところでは,相手の頭が自分の鼻やアゴにぶつかるくらいの距離。ここに相手が来たときに,短い右クロスを打てる必要があります。

ジャブのところでも注意しましたけど,近いとどうしても上体を反らしがちなんですが,短い右クロスを打つときには特に,上体の角度に気をつける必要があります。近くても,上体の角度はそのまま。「やや前傾」ですね。

このように,右クロスって,右肩よりも外側には強く打ち難いパンチなんです。

ここで「和式」のサウスポー対策を思い出してください。「左に回れ」と。

そうすると,標的が自分の右肩の外側(右)になっていくでしょ。ここに強い右は打てないんです。

一方,相手からしてみたら,強い左クロスを打ち込みやすいポジションなんですね。

左右逆で考えてみましょうか。

サウスポーの相手が,自分の左側に動いてくれたとします。ほら,強い右クロスを打ち込みやすい位置関係になりますね。右クロス・チャンスです。もしかしたら,標的が光って見えちゃうかもしれません。そのくらいの絶好の位置になります。

サウスポーを相手に左に回る,ってのは,これをやっちゃってることになります。サウスポーの「左クロス・チャンス」をつくって「あげちゃってる」ことになります。そりゃ,サウスポーが倒して勝ちますよねぇ。

ってことで,日本以外のサウスポーは,わりとよく左に動きます。「和式」のセオリーとは異なりますが,そもそも「和式」のセオリーってのが怪しい,ってことを憶えておいてください。

続いては,左フックです。

これはジャブと反対で,発射元である左肩の外側(左側)に「射程範囲」が広がってます。

ですんで,ジョー小泉氏の「サウスポーが左に動いて左フックを打つ」は,誤りです。だって,左フックの「射程範囲」は内側(右)に広がってませんから。

あんなんで,どうやってミットを受けてるんでしょうね? あんなのがミットもったら,打ち難くてしょうがないでしょうに…。それを「選手が悪い」ってことにするんでしょうか? 「お前が悪いんだろ」って感じですけど,「和式」の上下関係でやり込めるんでしょうか?

左フックは左右でいうと左側に広がって,上下,遠近はわりと広めになります。

が,わりと「打ちやすい長さ」しか訓練しない傾向があるんですね。

そりゃそうです。誰だって,やりやすいものを反復練習して「いい気分」になりたいはず。が,ちょっと打ち難さを感じるくらいの上下,遠近を反復訓練することによって,「使える武器」にするんです。「やりやすい」ものだけを訓練しての「一発屋」希望なら別ですけどね。

近くは,右クロスのときと同じくらいのところ。

相手の頭が,自分の鼻やアゴに当たるくらいの近距離を打ち抜けないといけません。

また,ロングは,踏み込んで打たないと届かないところに,アゴを上げずに打てる必要があります。

遠いとアゴが上がりがちですし,近いと上体が反りがちですんで,こうしたところに特に注意しましょう。肩から先の,特にヒジの角度が変わるだけで,他の部分は距離が変わってもほぼ不変です。

Jorge LinaresMikey Garcíaとやる方向で交渉を進めてるようですけど,Garcíaは長い左フックが打てちゃうんで,Linaresが右にスウェーして安心しきったところにGarcíaの左フックが当たりそうな気がしてなりません。

巧い選手は,こうした「射程範囲」によるパンチの打ち分けが絶妙です。

例えば,古い選手ですけどAlexis ArgüelloやRicardo Lópezといった選手。こうした細身の倒し屋は,その時々の相手の位置に応じて,適切なパンチを強烈に打ち込んでました。逆に「和式」は,「とにかく得意なパンチを得意な距離で強振する」パターン。これでうまいこと勝ち進むと,運よくトップに行けることがあります。

まるで違うでしょ?

あ,パンチ3つだけで,わりとデカくなっちゃいましたね。「射程距離」っていう概念を知らないとミットを受けられないはずなんですけど,知らずにミット受けてる人たちは,何なんでしょうか…? いやいや,肉体的な疲労はあるんでしょうけど,トレーナーも選手も,頭ぁ使わない,ってことなんでしょうか?

ちょっと面倒なんで,図示するのを怠っちゃいましたけど,もし御希望があるようでしたら,また次回。

それから,念のために申し上げておきますけど,「この程度」の知識は,当然に誰もが有してるべきことであって,筆者自身が特別なレベルにあるとはちっとも思ってません。解説者や記者どものレベルが極端に低すぎるだけ。

だって,野球やサッカーなら,居酒屋の会社員が「あそこは,あーだったなぁ」くらいの采配や戦術に触れて喋ることができるでしょ。ところが,ボクシングの解説者や記者どものレベルが低すぎるせいで,ボクシング談義はそのレベルに達してないとしか思えないんですね。

未来は,ないんでしょうかねぇ…。解説者のレベルが「あれ」ですから…。