掛け率「1」って…?

ÁlvarezがChávez, Jr.にフルマーク勝ちしましたね。どこかで腹打ちを決めて泣かせて勝つんじゃないかと思ってたんですが,外れました。日本では「腹打ちはジワジワ聞く」設定になってますから,泣かないことになってますけど,実際には泣くほど痛いものですからね。誰か,ちゃんと正しましょうよ。

気になったのが,Álvarezの呼称でした。盛んにアダ名である「カネロ」っていってましたけど,実際には「Canelo」って語のアクセントは真ん中にありますから,カナで書くと「カネーロ」っぽくなります。さらにいうと名前も「Saúl」ですから,「サウール」っぽくなります。あ,「Álvarez」ってのも頭にアクセントが位置してますんで,「バ」を強めにいうのは間違いです。

かつて「Guriérrez」ってメキシコ人が「グチェレス」ってコールされてポーズとらなかったように,もしかしたら「サウル・カネロ・アルバレス」っていっても,本人は自分のことだと認識できないかもしれません

あ,そうそう,「Saúl」同様に「Raúl」っていう語も,アクセント記号がありますから,頭にアクセントはありません。1996年2月5日に勇利アルバチャコフ選手とやった「ラウル・フアレス」は「Raúl Juárez」ですから,これまた「ラウル・フアレス」では本人が気づかないことも考えられます。

そのRaúl Juárezの息子で,こちらも世界王座に挑んだことがある「Saúl Juárez」も,「サウール」ですからね。

そういえば,メキシコのRaúl “Jíbalo” Pérezなんてのは,姓も名もアダ名も,すべてアクセント記号がついてました。

適切な例かわかりませんが,アイデンティティの見浦さん野沢雅子さんのマネをしてないほう)が,頭にアクセントを置いて「ミウラです」っていうのを見たことがあります。きっと「三浦」と同じアクセント,イントネーションのときにも「間違ってんだけどなぁ…」って思いつつ返事をすることでしょうけど,御本人は頭にアクセントを置いて読んでますね。

話をÁlvarezに戻すと,彼は「外側への右」が打てちゃうんですね。これ,非常に怖いんです。

Amir Khanを倒したときの右とか,James Kirklandをダウンさせた右なんていうのが,その,外側への右でした。また,Manny Pacquiaoを失神させたMárquezの右も,そんな外側への右でした。

日本ではサウスポーを相手に左に動け,っていいますけど,実際のところ,肩の外側に強いクロスは打ち難いんですね。

体の回転を利かせると,対角線気味にしか体重をぶつけられないんです。つまり,サウスポーを相手に左に動く右構えは,強い右クロスを打てないことになります(でも「左に動け」っていうのは,たぶんインチキです)

ですから,右構えは意図してか否かに関わらず,右構えに対して左側に位置すると,わりと安心します。「ここにいれば強いのは飛んでこないな」っていうことが,感覚的にわかるんですね。

ところが,Álvarezは右肩の右外側に強い右が打てちゃうんですね。Márquezも打てちゃってました。

サウスポーの選手が,わりと重心を後ろ(左)に置いて,右構えの右クロスを左に外して左クロスを打ち込むことが頻繁に見られますけど,こうして右クロスの外側に出ちゃうのは,わりと安全なんですね。で,その安全圏から強い左クロスをカウンターするんですから,安全,かつ,強い,っていうことで,これで決まるケースがあります。

というように,右構えに対して安全な位置なはずのところに強い右を打てちゃうÁlvarezとかMárquezのフィニッシュの右について,解説者は「見事なタイミングでした」みたいなことしかいってませんでしたけど,あれは普通は「打てない右」なんですね。解説者はそれをいわないといけません。いわば,あれは奇跡的な右だったんです。特殊な右でした。

もし筆者がアフレコするんであれば,あのときのPacquiaoやKhanに「そこ?」っていって散っていくことでしょう。だって,彼らにしてみれば「安全圏」だったんですからね。

しばしば,筆者は若い選手に「倒されたくなければ簡単だよ。3m離れちゃえばいいんだよ」みたいなことをいいます。勝てる可能性は著しく低くなりますが,3m離れれば相手のパンチを食うことは考えられません。

と同様のことが,KhanとかPacquiaoの位置どりにはいえたんですね。ところが,そこをÁlvarezとかMárquezは強打しちゃいました。「そこ?」でしょ?

で,またまた話をÁlvarez-Chávez, Jr.戦に戻しましょう。

これを放送では「この試合の掛け率は『5-1』です」みたいなことをいってました。

でも,「掛け率1」って何ですか?

その選手に賭けて,で,その選手が勝ったとして「1」って,あり得ますかね? 例えば1万円を賭けて,勝って1万円がそのまま返ってくる,って,そんな賭けが考えられるんでしょうか?

WOWOWエキサイトマッチ』のスタッフには,ギャンブルをやる人が1人たりとも存在しないんですかね? でないと「掛け率1」って,突っ込むでしょうに。

あ,こうして,倍率でオッズを表示するのは,国際的にはわりと稀なようです。例えば「1.10」だとすると,1万円を賭けて「1万1,000円」になって返ってくるんで,わりとわかりやすそうな気もするんですけど,ヨーロッパなんかでは「フラクショナル」っていう形式で表示されることが多いようで,例えば「1.20」は「1/5」なんて表示されます。

「1/5」は少数にすると「0.2」ですから,その選手が勝つと「0.2」増えて返ってくるんですね。日本的にいうと「1.20」ですが,これを「フラクショナル(分数の)」に対して「デシマル(少数の)」っていうことがあります。

さらに,アメリカでは「オッズライン」とか「アメリカン」とかいう形式で表示されるようです。

これねぇ,感覚的にわかり難い気がするんですけど,日本式の「3.20」は「+220」って表示されます。

「+」の場合には,「100」を賭けて増えて返ってくる数字になります。ですから,「+220」の選手に「100」を賭けて勝てば「320」になりますし,「+300」なんて選手に「100」を賭けて勝てば「400」になる,っていう,いわば「穴」ですかね。

一方,「−」がつくケースがあって,この場合には,「その額を賭けて勝つと,100返ってくる」ことを意味します。

和式の「1.20」の場合,「100」賭けると「120」になりますね。これは「−500」って表されます。「500」賭けると「100」増える,ってことなんですけど,わかり難くありませんかねぇ? 和式に馴れちゃったからかもしれませんけど…。

改めて書くと,日本式の「デシマル」での「1.50」は,「フラクショナル」で「1/2」,「オッズライン」で「−200」。

「デシマル」での「4.00」は「フラクショナル」で「3/1」,「オッズライン」で「+300」となります。

もしかすると,上記の説明でどっか間違っちゃってるかもしれません。そのくらい複雑です。

あ,そうそう。タイ式では賭けが行われてる,ってことで,しばしば会場付近で胴元を探しちゃう日本人がいるそうですけど,存在しませんからね。

そもそも,タイっていう国はギャンブルが全面的に禁止されてまして,当然,タイ式もダメ。ですから,日本でいう「勝馬投票券」を買うようなところはありません。

じゃ,どうやってるか,ってぇと,基本的に「1対1」のやりとりになります。

例えば,自分が「赤コーナーの選手が勝つに違いない」と思ってたとすると,「青コーナーの選手が勝つに違いない」っていう人を探すんですね。で,これを仲介する人がいるんです。

「赤の選手に200バーツ!」みたいに,その仲介人に手信号を送ると,それに見合った人を見つけて,「コイツが青に賭けるよ」みたいなことを教えてくれます。

で,うまく行くと交渉成立。公式に誰かが賭けをとり仕切ってるわけではなくて,こうして,1対1で賭けが成立します。これを,まぁ,警察機関は黙認しちゃってるわけですね。誰もが,賭けをやっちゃってることを知っていながら…。

それは差し詰め,日本のソープみたいなもんでしょうか。

日本では売春は禁じられてますけど,場所によっては明らかにそうした行為が行われてることは,ほぼ誰もが知ってるはずです。

が,売春は禁止。では,どうやってるか,ってぇと,そこは「自由恋愛」なんだそうですね。売春ではなくて,恋愛ですから,法的には問題ない,ってことのようです。誰もが,行為を知ってるはずなんですけど,「自由恋愛」ですから,お咎めなし,と…。

タイ式の賭けも,そんな感覚でしょうか。

まぁ,それでも「掛け率1」っていう,勝っても1円たりとも増えないことはあり得ないでしょうけどね。そんな賭け,誰がやるもんか,って感じです。