ずいぶん以前に『水曜日のダウンタウン』でやってましたけど,腹打ちが「ジワジワ効く」,っていうのは都市伝説でしかなくて,少しも正しくありません。即時に効きます。しかも,悶絶しますから,しばしば気を失う顔面へのパンチよりも痛々しさは大きくなります。
あるとき,若い選手(練習生だったかも?)から,こんなことをいわれたことがありました。
「ボク,腹打ちで効いちゃうんですよ。根性なしなんでしょうか?」
いやいや,そんなことはありません。腹打ちで効いちゃうのは当然のことで,根性の有無で耐えられるものではないんですね。なぜか腹打ちで倒れると根性なしと思われちゃってそうですけど,それは正しくありません。
ほら,思い浮かべてみてください。そんなことをいっちゃってる「あの解説者」,現役時代,サウスポー・スタイルだったでしょ?
他にも,日本の解説者の多くが,現役時代に左構えだった人が少なくありません。ここに,誤解というか,間違いが生じる原因がありそうです。
サウスポーというのは,右足,右腕,そして,腹の右側を前に位置して構えますね。すると,相手から右側の腹を強打される機会が少なくなるんですね。
なぜか日本では「鳩尾(みぞおち)」っていう箇所が腹の一番の急所として挙げられることが多いんですけど,この鳩尾は,「ほぼまったく」効きません。かつ,わりと「打たれる!」っていうのがわかるんで,打たれる瞬間に力を込めることができちゃったりするんですね。
元から大して効かない上に,食う瞬間に力を込められるせいで,ここは「まったく」っていいくらいに効きません。なのになぜ急所としてまっさきに挙げられるのかは謎なんですけど,ここをまっさきに腹の急所として挙げる人を見たら,「無知」と思っちゃっていいかもしれません。そのくらいに効きません。
が,効くところがあって,それが肝臓なんですね。
1990年代に倒しまくった日本人選手を2人,思い浮かべてください。辰吉丈一郎選手と鬼塚勝也選手です。ともに,左の腹打ちの名手でした。
辰吉選手は左アッパーで,鬼塚選手は左フックで,ともに肝臓を強打してました。これによって,2人とも,相手を悶絶させてましたね。それこそ,泣かせちゃってる感じでした(「いじめっ子」っぽくさえ見えましたね)。
肝臓っていうところは,こうして左パンチで狙います。
位置としては,腹の右側,ちょうど,肋骨がなくなった辺りにある,デカい臓器です。
腹の右側に位置してますから,この部位を前にして構えるサウスポーは,ここを強く打たれる機会が減るんですね。だって,ストロークが小さくなりますから。腹の右側を相手から遠くに位置させてる右構えは,その分,ストロークの長い,強い左パンチを肝臓に受けやすくなります。
ここを強打されると,異常なまでの苦しみと痛みに襲われます。そして,悶絶します。どんなに根性があっても,倒れます。根性で耐えられるものではありません。
聞いた話で恐縮ですが,どうも,肝臓自体には痛点はないそうです。ですから,痛むのは肝臓自体ではなく,それを覆う腹部なんだと思われます。曖昧ですけどね。
腹打ちで倒れると,「情けないですねぇ…」っていっちゃう解説者がいますが,彼自身,現役時代は左の腹打ちを多用してましたからね。ですから,多少なりともその効果を知っててもよさそうなものなんですが,まったく知らないようです。
「腹打ちはジワジワ効く」っていうのは,都市伝説ですね。
ですから,若手選手に,「あれは解説者がわかってないだけで,効いて当然なんだよ。だからこそ,強く打てるように訓練すんだよ」みたいにいった記憶があります。腹打ちは,その場で効くというのが正解。
ただし,繰り返しになりますけど,肝臓以外はほぼまったく効かないといっていいと思います。なぜか有名な鳩尾は,まったくといっていいほど効きませんし,肝臓の反対側である左脇腹(打つ側からすると右パンチで狙う腹)も,効きません。
「腹打ちはジワジワ効く」っていうことに,何のメリットがあるのかは知りませんけど,これ,ウソですからね。
あ,こんな実験をしてみましょう。
友人と左右に並んで歩きます。自分が右側,相手が左側に位置するように歩きます。
そして,歩きながら,相手の呼吸を読みましょう。狙いは,相手が息を吸った瞬間です。
その瞬間に,触れる程度で結構ですから,左手で相手の腹を「コツン」としてみましょう。繰り返しになりますが,「触れる程度」ですからね。間違っても,「ガツン」にならないようにしてください。
すると次の瞬間,相手は視界から消えます。腹を抱えてうずくまります。もしかしたら,泣いちゃってるかもしれません。
ただし,友情が壊れることが考えられますから,あまり仲のよくない友達か,縁を切ろうと思ってる友達を相手にやってくださいね。
このように,相手が腹を固めることができないタイミングで打つのがポイント。だから,左のダブルは「上→下」っていう順番で打って,「上」で安心する相手に追撃の「下」で悶絶させちゃったりするんですね。左のダブルを「下→上」って教えるのは,たぶん指導者側にとって「ミットで受けやすい」っていう理由によります。
というわけで,腹打ちを狙ってみましょう。もちろんそれは,肝臓に限られます。。
そういえば,これまたずいぶん前ですけど,プロレスラーの鳩尾に力いっぱいの右を打ち込んで,逆に頬を張られた予備校生がいましたね。
彼はきっと,鳩尾っていう箇所を過大評価というか,日本人としては当然の理解をしていたんでしょう。都市伝説を信じちゃってたんでしょう。
そりゃ,効かずにビンタされんのも当然だったことでしょう。だって,都市伝説なんですから。
それにしても,困った都市伝説です。
信じるか信じないかは,あなた次第ですけど。
あ,追加です。思い出しました。
武井壮さんって左利きなのに,「イージーです」っていって,右で腹打ちするんですよね。これが,いかに肝臓が急所って知られてないか,っていう,いい証拠だと思います。せっかくの左利きなんですから,腹もちゃんと左で打てよ,って感じなのに,知らないんでしょうね。
まさに,洗脳が効果を発揮してる感じです。その洗脳に,何らかのメリットがあるのか否かは謎ですが。