1インチは,およそ2.54cmです。聞いた話では,これは親指に起因するものなんだそうですけど,親指のどこをとったら2.54cm程度になるのか,わかりません。幅らしいんですが,親指って,そんなに太いんでしょうか? ちょっと謎です。
そのインチ,誰もがチャリのタイヤとかテレビの画面とかに使われてんのはわかってるはずですが,日本では商取引にMKS単位系以外の単位を用いちゃいけないんで,インチはアウト。ですから,「21型」とか,「インチ」は意地でも使いません。どう考えたって,誰もが「インチ」って知ってたって,使いません。
某選手の話ですけど,彼は現役時代,身長を2インチほど低く公表してたそうです。体重制の競技ですから,体重は厳密に測定されますけど,身長はいわば「いった者勝ち」なんですね。自己申告です。
ですんで,わりと身長を高めにサバを読むケースがほとんどで,某選手は公称173cmだったんですけど,筆者が並んだ感じでは,170cmあるかないか,くらいでした。そんなになかった気がします。でも,測るのは義務づけられてませんから,何でもありです。
で,「逆サバ」を読んでた選手の話に戻すと,彼は2インチ,つまり,5cmほど,低く公称してました。狙いは,実際に向き合ったときに「ウソ! コイツ,デケぇんじゃん」って思わせることだったそうです。そりゃ,例えば160cmを想定してて,実は165cmだったら,ちょっと焦りますよね。打ち方自体も変わりますし,ヘタすりゃ,それまでの練習は覆されちゃうわけですもん。ちょっと大ゲサにいえば,ね。
あ,「cm」ではなく「インチ」で身長を示す国での話,でした。日本では「cm」ですから,同じことは使えませんよ。
ということで,お題の話に戻ります。
引退を発表した選手の話ですけど,彼はキャリアの晩年,わりとサウスポーと闘うことが多かったんですね。で,その選手,スピードのあるすばしっこい選手だったんですけど,懸命に左に動いてました。あ,これ「右回り」ですからね。左に動く,つまり,「時計回り」は「右回り」です。頭の気の毒な解説者が平気でこれを「左回り」っていっちゃってますけど,あれがバカなんです。頭が気の毒なんです。
ところが,ですねぇ。
これは筆者はかなり以前から主張してるんですけど,サウスポーを相手にして左に動くのって,自殺行為な気がするんですよ。
実際には,右クロスって,発射元である右肩よりも外側には強く打ち難いんですね。体を回転させますから,発射元の右肩よりも内側にしか強く打てないんです。
ただし,例外がいます。Juan Manuel MárquezやSaúl Álvarezです。
この2人は,ボールを投げるような右肩の外側を強く打つ右が打てちゃうんですね。MárquezがManny Pacquiaoを失神させた右とか,ÁlvarezがJames KirklandとかAmir Khanを捕えた右なんてのは,そんなパンチでした。
こういうパンチは,右肩とか右上腕に異常なほどの負担がかかります。あれを「タイミングが素晴らしい」みたいにしかいえなかった解説者は,いっちゃえば,「クソ」です。普通は訓練しないパンチを打てちゃった「奇跡」みたいなもんですからね。
あ,野球のピッチャーが,投げ終えた後にビックリするくらいのアイシングをしますね。平野ノラさんの肩パッド以上のアイシングをします。それだけ,体から離したところに腕を強く振るうっていうことには,大きな負担がかかるんです。
ですんで,右構えは通常,右肩より外側に,強い右クロスを打てません。
では,左に出ちゃいましょう。そして,そこから右を振りましょう。
ね,右肩よりも外側に振ることになるでしょ。異常なほどの違和感を覚えるはずですし,よほどこういうパンチの訓練をしてないと,強くは打てません。
ですんで,サウスポーを相手に左に出るのは,「自殺行為」なんですね。
こっちが打てないのに,サウスポーからしてみたら,相手が勝手に右に動いてくれるせいで,強い左クロスが打ちやすい位置どりになります。
どうやら,日本って国は世界的にも,サウスポーの選手が大成するケースが多いそうですけど(ちゃんと集計してません),サウスポーに対する右構えの「勝手な自殺行為」が,これを助長しちゃってる気がします。サウスポーにしてみたら,「いいの? ホントにいいの?」って感じに,右構えが自殺してくれるんですから,これほどいい流れはありません。
例えば,かけ算九九なんて,今後も不変でしょう。が,もし「ホントは3の段,違うんだぜ」って,いつか,なったとしましょう。そしたら,それまで憶えてた「3の段」は,全部ダメになります。
あ,もうちょっとちゃんとした例がありました。
鎌倉幕府の始まりって,筆者の頃は「いい国つくろう」って憶えましたけど,今は「1185年」なんだそうですね。今「1192年」って答えたら,誤答です。
あと,筆者の頃は,ティラノザウルスは太い尻尾を地面につけて歩いてた,ってことになってましたけど,その後の調査で,尻尾の跡が見つからないらしく,実際には尻尾を浮かせて,シーソーみたいに前後を上げて歩いてたらしい,ってことになったようです。これなんて,筆者の知識を完全に覆されちゃったわけです。
あ,恐竜に実は羽毛みたいなものがあったらしい,っていうのも,筆者が子どもの頃には知らなかったことです。
という具合に,ある時代に真とされてたものが,後年,覆されることがあります。「サウスポーに対して左に回れ」っていうのは,これなんじゃないか,って思うんですね。「古典」というか,「古い思い込み」というか,もっというと「古い間違い」というか…。
『WOWOWエキサイトマッチ』の選手経験のある解説者は3人ともサウスポーでしたけど,サウスポーの選手に対して右構えが右に動き続けて勝ったり,逆に,サウスポーの選手が左に動いて見事な勝利を収めたりしたときに,その「回り方向」に「まったく」触れません。都合の悪いことは「黙殺」っていうスタンスなんでしょう。自分の信じてることだけを「押しつける」方針なんでしょうね。たぶん暴力ですけど…。
今後,右構えとサウスポーの試合があったら,その回り方向に注目してみてください。スイッチ・ヒッターのTerence Crawfordが,サウスポーに構えて左に動いて強烈な左クロスを直撃させるシーンがあっても,サウスポーだった解説者は黙殺です。だって,都合が悪いんですもん。
たぶん,盲信です。きっと,技術的な講座っぽく「サウスポーに対しては左に回れ」って書かれてるところがあると想像しますが,それは「古典」をなぞってるだけです。おそらく,間違ってます。今なお「いい国つくろう」ってやってます。
違うんだってば…。日本では真実扱いですけどね。
あ,想像になっちゃって恐縮ですが,たぶん,サウスポーに対して右構えが左に動け,っていうのは,蹴りのセンスです。
蹴りっていうのは,正面を蹴るのが非常に困難なんですね。左足であれば,相手の腹の左側を,右足であれば右側を蹴ることしかできません。あ,「できません」っていうのは,ちょっといいすぎですけど,非常に難しくなります。
で,サウスポー,つまり,右足を前にして構える選手と対する場合,腹を蹴るには,右足で蹴るほうが,正面を捕らえやすくなります。ですから,サウスポーに対しては左足を前に進めつつ右足で蹴ることになるんですね。
ただし,ここでしつこいほど書いてますが,右足で蹴る腹に急所はありません。腹で効くのは,肝臓にほぼ限られますから,左足で蹴る必要があります。タイ式の選手にサウスポーが多いのは,左で蹴るのを重視する傾向があるためです。
ということで,たぶん蹴りのための「左に動け」なんですけど,それがいつか,パンチもそういうことになってます。間違ってる気がするんですけど,そんなことになってます。自殺行為だと思うんですけどねぇ…。