それはたぶんトレーナーの都合

タイ人の蹴りって,どのくらい強いの?」って御質問をいただきました。

ちょっと単位がわかんないんですけど,ある雑誌の編集長,当時たぶん50歳手前だったと思うんですが,この人物が金属バットで叩いて800くらいだったんですね。で,当時の147の日本王者が,助走をつけて右ローを蹴って,1,000くらいでした。

で,ある102のタイ人が,「試合ならこのくらいかな?」って感じでサウスポーからの左ミドルを蹴ったら,1,200くらいでした。

繰り返しになりますけど,単位が何だか,わかってませんからね。

ただ,単純に,どうやら「金属バットの1.5倍」っていう感じでした。

その結果を受けて,その某誌編集長,102の選手に,「キミはバット忘れてきちゃっても,草野球できるんだね」って。

いやいや,バットくらい,誰かに借りるでしょ。さすがに「あー,バット忘れた。じゃ,蹴るか」ってことにゃなりません,って。

って,その選手は呆れてました。

あ,147の日本王者はそのとき70kgくらい,102の選手は50kgあるかないか,程度だった気がします。

もうずいぶんと前の話なんで,記憶はかなり曖昧ですけど,そんな数字でした。しつこいようですけど,単位はわかりませんからね。

情熱大陸』で村田諒太選手が特集されてましたね。でも,採点法や採点基準については触れられませんでした。わかってんだか,わかってないんだか…。

TBSのボクシング中継でも「点差をつけることが推奨されてます」みたいなことをいってた記憶がありますから,TBSのアナウンサーたちも,ルールを読んでないのかもしれません。ルールくらいわかってるのが常識でしょうに。

だって,例えば誰かにインタビューするとしたら,その人物の過去の作品とかを見とくことは必須でしょ? そんな感じで,ルールがあるもののルールを読んでおくことは必須でしょうに。なんでああ,あそこまでバカなんでしょうね。信じられません。

その村田選手の試合の翌日には井上尚弥選手の防衛戦があって,相変わらず速い左フックの上から下を出してました。「上→下」っていう順番です。これ,わりと重要ですからね。

日本のジムでは,わりと高い確率で左フックを「下→上」っていう順番で打たされます。でも,これだと,遅いんですね。「上→下」のほうが速く強く打てます。

じゃ,なぜ「下→上」なんでしょうか?

恐らくは,昔からの悪しき慣習と,トレーナーの都合だと思われます。遅いほうが,受けるのに楽なんです。当然ですけど。

「上→下」だと,速すぎて,「下」に対応しきれないんですね。両方をきちんとミットで受けようとすると,2発目に間に合いません。

ところが,「下→上」だと,1歩下がってちょうどいいタイミングで2発目の左フックが飛んできますから,いい音を立てて受けることができます。つまり,受ける側の都合で,遅いコンボをやらされてるわけです。

井上選手がまさにそうですけど,大橋秀行選手の系列の選手は,左フックを「上→下」っていう順で打ってます。

最近は日本でも,腹のプロテクターをつけてミットを受けることが多くなってますから,トレーナーがミットではなくプロテクターで腹打ちを受けることが多いようですが,今もまだ左フックを「下→上」って打たせてるケースが少なくありません。遅いヤツをね。いってみれば,「古典」です。悪しき慣習間違った伝統

採点方法を誤ってることに誰が得するのかは謎ですけど,左ダブルを遅く打たせることには,トレーナーにメリットがあります。

コンボが速いでお馴染みの,Floyd MayweatherSaúl Álvarezも,左フックのダブルを「上→下」って打ってるんですね。彼らに優れたスピードがあることは当然ですが,それ以前に,速く打てるつなぎを用いてるんです。もし,左のダブルのスピードに悩んでるかたがいたら,もしかして,「下→上」ってつないでませんか? それ,難しいんですよ。速く打てるヤツなんて,いないんですからね。

コンボっていえば,これを日本ではわりと「コンビ」っていうんですよね。「ナイス・コンビ!」みたいに客席で叫んでる人を目撃することがありますが,何だか,楽しげに2人で喋ってるような気がしちゃいます。センター・マイク挟んじゃってそうでしょ?

コンボと村田選手で思い出したんですけど,村田選手の右クロス→左フック,っていうコンボの2発目の左って,恐ろしいほどに「手打ち」ですね。馬力と体の硬さがあるから,わりと強いパンチが打ててるようですけど,あれを単純に見たら,「こんな手打ちじゃなぁ…」って思われても仕方ないような気がします。明らかすぎる手打ち。ジムで注意されないのが不思議なくらいです。キャリアを考えると,今から直すのは困難でしょうけど,あれは許容範囲外じゃないでしょうか?

またMayweatherの話題になりますが,あの選手,特に晩年は後ろ重心でした。そこから,「右ダックを多用しがち」ってことが読みとれます。Mayweatherは強くて速い右カウンターを得意にしてましたけど,それを可能にしたのが,あの後ろ(右)重心でした。右ダックが速いから,速い右をぶつけられたんですね。

理論的には,Mayweatherに右ダックをさせておいて,そこに長い左フックを打ち込む,ってことが考えられました。それがSaúl Álvarezにならできるかなぁ…,って思ってたんですけど,できませんでしたね。そこには,Mayweatherの予想以上の速さがありました。

Mayweather,右ダックが速いせいで,サウスポーとの対戦は好きだったと想像できます。サウスポーの左クロスって,右ダックで外しやすいんです。Víctor OrtizRobert GuerreroManny PacquiaoなんていうところがMayweatherが晩年に相手をしたサウスポー選手ですが,いずれも自在に右を当ててたでしょ? かつ,相手の左クロスに慌てなかったでしょ? 右ダックが好きな選手は,サウスポーとやるの,大好きだったはずです(その逆が辰吉丈一郎選手ね)

ホントに復帰すんのかどうか知りませんけど,相手がサウスポーに構えたら,わりと容易に右を直撃させちゃうことと思われます。

また判定のネタになっちゃいますけど,バカが多数派になってしまうと,蔓延しがちですね。たけしさんがボクシングの採点で「点差が必須」って思い込んじゃってるように,蔓延しちゃいます。奇しくもそのたけしさんが,「1割のわかってるヤツを9割のバカが駆逐しちゃう」みたいなことをいってましたけど,たけしさん自身がその「9割」になっちゃってるんですから,どうにもなりません。

多数派っていえば,「お後がよろしいようで…」っていうのも誤用されてます。今,わりとうまいこといった後にこのセリフが吐かれて,要するに「いい感じに落とした」みたいな遣われ方をしますけど,本来,寄席で後の出番の人の準備ができたことを確認して「お後がよろしいようで」って使います。

それは,日本の正確な電車で寄席に入る場合を除き,寄席に入るのにはわりと時間がルーズだった時代のこと。噺家さんは噺を始めると,羽織を脱ぐんですけど,これを前座が回収したら,「お後がよろしいようで」のサインなんですね。「お後がよろしいようで」は,略さずにいうと「お後の人の準備がよろしいようで」って意味です。ね,カッコよく落とした後のセリフではないでしょ。

上のは一般語ですけど,ボクシング用語でも,伝わり難い言葉は少なくありません。

パンチ・ドランク」ってのは,そのままだと英語であんまり遣われませんもんね。これは英語で通常「Dementia Pugilistica」っていいます。無理に訳すと「ボクサー性痴呆症」ですかね。もちろん「パンチ・ドランク」っていっても意味は通じるでしょうけど,あんまり一般的ではありません。

あと,「サンド・バッグ」ってのも和製英語。これはもしかしたら,英語では通じないかもしれません。だって,そもそも,あそこに砂なんて入ってませんもんね。もし砂だったら,1発で拳を壊します。

あ,それから,『WOWOWエキサイトマッチ』で髙柳健一氏がアメリカでの試合のときに「ここで使ってるゴングは,日本のタイプとは全然違うんですねぇ」みたいなことをいってましたけど,あれもモノを知らなすぎ。

「ゴング」っていって木槌で叩くようなものは日本で「しか」使ってなくて,ルールを見ても明らかなように,あれを英語では「Bell」っていうんですね。「Cannot be Saved by the Bell 」なんてルール説明でも用いられるように,吊り下げ式の「ベル」が国際的には標準なんです。日本の「ゴング」が例外的なんですね。

というように,この業界,いろんなところで,ありとあらゆる人たちが,無知すぎます。ちょっとでもわかって見てると,バカバカしく思えるくらいです。

「煽動罪」みたいな罪に問われないんでしょうか? 「にわか」も,いい加減にしてほしいもんです。テスト直前の一夜漬け以下,いや,未満ですよ。