技術的なことではなく,わりと知識面で「バカだなぁ」ってなことを挙げてきましたけど,技術面でも,あれほどにボクシングを知らない人たちが解説をしてることに疑問を感じます。「疑問を抱く」どころか,視聴者に悪影響を与えるんじゃないかと,怖いんですね。あれほどの無知な解説は,危険です。
例えば,「ガードを下げると打ちやすい」っていう都市伝説。
これ,正しくありませんからね。
もう誰も知らないかもしれませんけど,かつて,Ricardo Lópezっていう軽量級のとてつもなく強い選手がいました。
この選手,ガードは非常に高かったんですね。
両コメカミくらいまで,両手を挙げてました。あ,今だと,Román Gonzálezが両ガードを高く構えます。
でも,LópezもGonzálezも,手数,少なくないでしょ? むしろ,多いくらいです。
こんな例があるのに,それでも「ガードを上げると打ち難い」ってことが成立するんでしょうか。
逆の例が,日本では辰吉丈一郎選手でしょうか。こういう選手を指して,「ガードを下げると打ちやすいんですけど…」って,「アニキ」がいいますけど,たぶん,あれは「やっかみ」だと思いますね。嫉妬でしょう。技術的,あるいは,科学的な根拠はなく,心情的に許し難いだけでしょう。
詳しいことは後で書きますけど,ガードの高さとパンチの頻度に相関関係は「まったく」ありません。つまり,上記のような解説をする人は,ウソつきか,まったくわかってないか,の,どちらかです。こんな人が解説しちゃってたり,指導しちゃってたりすることは,犯罪的な行為な気がします。
別の解説者に話を移すと,122lbs級で何度も防衛したかつての名選手が,「アッパーとフックの中間です」みたいなことをいい放つことがありますけど,アッパーとフックって,軌道が違うんじゃなくて,体の使い方がまったく異なるパンチですからね。
横分けオヤジが「アッパーは腕力のない日本人にとって打ち難い」みたいなことをいってましたし,アップアップガールズ(仮)も『アッパーカット!』中で「力こぶ」をつくるようにアッパーを打ってますから,もしかしたら,ほぼ全員が勘違いしてるのかもしれません。
そうそう,『はじめの一歩』でも,同様に,肩の外側にアッパーを振っちゃってる絵がありましたから,これまた,完全な勘違いでした。残念ですが,この勘違いが広く普及しちゃってるんでしょうね。
解説者が間違ってるくらいですから,正す人もなく。この間違いは,どんどん広まっていくことでしょう。これを「バカの拡大再生産」といいます。あ,そのくらい,解説者たちは無知です。ホントはわかってるのか,完全に無知なのか。たぶん,後者なんでしょうね。この国からは名選手は出ないものと思われます。
といったところでお題に戻ると,Floyd Mayweatherのトリック・プレーを見て,寒くなりました。
年内に総合格闘競技に復帰するんじゃないか説のあるMayweatherですが,どうなんでしょうかね。あ,『WOWOWエキサイトマッチ』でたまに,「この選手はアマチュア経験があります」っていいますけど,基本的に,アマチュア経験がないと,日本以外ではプロ・ボクサーになれませんからね。
日本には「プロ・テスト」っていうのがありますが,これがない国のほうが一般的です。じゃ,技術的な証明は何でするか,っていうと,アマチュア経験です。あるいは,ボクシングに似た競技での実績が「必須」です。これを以って,日本でいうところの「プロ・テストでのスパー」に相当する審査をします。
ですから,「アマチュア経験」があるのは,「ほぼ当然」のこと。わざわざ報じるようなことではありません。「日本が例外的」なだけで,ね。
で,Mayweatherもオリンピックでメダルを獲るなど活躍してプロになって,全勝で引退しましたが,Diego Corralesとの130戦を見て,怖くなりました。
もうCorralesを憶えてる方のほうが少ないかもしれませんけど,Corralesは非常に防御の巧い選手でした。そのCorralesが,Mayweatherにコロコロ転がされちゃってました。
これには,Mayweatherのトリックがあったんですね。解説者は「まったく」触れてませんでしたから,たぶん,気づかなかったんでしょう。そんなレベルの解説者です。野球でいえば,打って3塁に走っちゃうみたいな感じでしょうか。
Mayweatherは,右前にステップして左フックを打てちゃうんです。あ,過去形にすべきでしょうかね?
これが,Corralesみたいに見切りのいい選手には脅威に働きます。
ボクサーっていうのは,パンチを見て防御するわけではなくて,相手の体の動きの「どこか」を見て反応します。
Corralesの場合は,相手の踏み込み位置を見て,反応しちゃってたようです。
右前,つまり,食う側(Corrales側)にしてみれば左側に相手がステップしてくると,それは「腹へのジャブ」と判断します。通常,というか,Mayweather以外の選手は,左前に踏み込んで左フックを打ちます。これが当然ですから,Corralesはカウンターをとりまくれちゃってました。
右前に左足を入れてくる,っていうのを見て,「腹へのジャブ」の対応としてCorralesがとったのが,右手を下げてパンチを払う,という動作でした。
そう,それは,つまり,顔面の右サイドはガラ空きになることを意味します。
Corralesにしてみれば,完璧に見切ったはずでした。腹へのジャブ「のはず」ですから,右手を下げて払えばいい,だけでした。
が,実際に飛んできたのは,顔への左フックだったんですね。
そりゃ,直撃されます。そして,倒れます。見切りのいいはずのCorralesがMayweatherの左フックで何度もダウンを食ったのは,Mayweatherのそんなトリックがあったためです。
もしCorralesが単純に,「何かあったら両ガードを固める」っていうタイプだったら,無事だったかもしれません。でもCorralesは違いました。こうして早く見切って的確なリターンを打てる選手でしたから,Mayweatherの左足の踏み込み位置だけを見て,「これは腹へのジャブ」と判断したわけです。その結果,その判断が誤ってたわけですね。
Mayweatherはときに,その速さだけをとり上げられがちですけど,そんなわけではありません。恐ろしいほどの罠を仕掛けてくる選手でした。
そういうところを,ちゃんと解説しろよ,と,思うわけです。解説者としても,指導者としても,どうなんでしょうかねぇ…。