『WOWOWエキサイトマッチ』を見てて,どうしても笑っちゃうのが,「ナイス・ボディー!」っていう言葉。いや,いいんですけど,あの,時に「アニキ」って呼ばれることのある人が「素晴らしい肉体!」っていうと,どうしても変な方向の想像をしちゃいませんかねぇ? 「アニキ」が「素晴らしい肉体!」ですよ。
アニキにそんなこといわれて寄ってこられたら,たぶん,断れないはず。権力もあることですし,腕力もあることですし,体重もあることですし…。そんな「アニキ」が「素晴らしい肉体!」ですもん。あの濃いヒゲをスリスリと…。想像しちゃうでしょ。
まぁ,それがボディ・パンチを讃える言葉だっていうことはわかってますけど,これ,英語だと,賞賛対象がパンチであることを略しません。例えば,「Good Body Punch by Donaire!」みたいに,「Body Punch」とか「Body Shot」とかいったように,対象がパンチであることを示した上で,それに対して「Nice」とか「Good」とかいいます。間違っても「Nice Body!(素晴らしい肉体!)」とはいいません。
あながち,変な想像でもないでしょ? あの「アニキ」がいい寄ってくるの,って。怖いでしょ? その画が,筆者の頭には真っ先に浮かんでくるんですね。
先日はその「アニキ」がいないところでJorge Linaresが完勝しましたけど,Linaresって,スウェイ,つまり,後ろへの上体の動きを防御に多用しすぎてるように思います。
日本には特に,長いパンチの打てる選手が少ないこともあって,あのスタイルでジム内では楽できるんでしょう。きっと,その楽が裏目に出ると思われます。ジム内ではきっと無敵なんでしょうけど,実際のリングで長いパンチの打てる選手とやった場合に,コテンと倒されそうな気がします。
それがまさに,WBC王者のMikey Garcíaなんじゃないか,と…。
Garcíaは,長いワン・ツーも長い左フックも打てます。ですから,Linaresがスウェイで外した「つもり」のところを強打されて沈みそうな気がするんですね。
スウェイみたいに,「外す」系の防御のときって,わりと体の力を抜いてしまうことがあります。つまり,「それだけ効く」ってことです。そんな,Linaresが「抜いたところ」をガツンと叩かれるんじゃないかと想像しちゃうんですね。「相性」っていうことになるかもしれませんけど,Linaresにとって,最も避けるべきスタイルが,Garcíaっぽい長いパンチの打てる選手な気がします。
で,ちょっと「素晴らしい肉体!」みたいな日本でしか通じないカタカナ語の話に戻ると,「マッチョ」っていうのも謎ですねぇ。
オードリーの春日さんが海外ロケの際に,空港で荷物検査を受けて怪しげなものが見られた際に「マッチョ・グッズ!」みたいにいったそうですけど,筋肉は英語で「Muscle」ですから,カナにすると「マソ」か「マッソ」になるはず。ちゃんと調べてませんが,「Aマッソ」の「マッソ」は,そういう意味なんじゃないでしょうかねぇ。
じゃ,「マッチョ」って何か? どうやら,スペイン語の「Macho」から来てるようですけど,これはスペイン語の概念での「男らしさ」を意味する語であって,どこをどう解釈しても,「筋肉」あるいは「筋肉質」って意味にはなりません。
むしろ,Ernest Hemingwayの作品に出てくるような男を意味しますから,日本でいうと,亡くなった松方弘樹さんみたいな感じになるんでしょうかね。ですから,筆者としては「マッチョ・ポーズ」って聞くと,釣り竿のリールを巻いてる姿を想像しちゃいます。
続いて謎なのが,「バンデージ」ですね。拳に巻く包帯上の布のことをこういいますけど,ボクシング用のこれって,専用のヤツで,今時,ホントに包帯を巻いてるヤツなんて,いないはず。ですからこれを英語では「Hand-Wrap」なんていって,包帯を意味する「Bandage」っていう語は,通常,出てきません。
そういえば,『ゴッドタン』では「バンテージ」って表記してましたけど,これは表記も間違ってますし,そもそも英語では「バンデージ」っていわないし,っていう,二重の誤りを感じました。『ゴッドタン』なんて見てんのが悪いのかもしれませんけど,こういうところでも誤用されてるってことは,一般に広く誤解が広がってる,ってことなんでしょう。誰か,例えば,あの横分けのオヤジみたいな人が全国的に正してくれないもんでしょうかねぇ…。
余談ですが,「Wrap」は,食品を包む「ラップ」です。「Hand Wrap」,って,まさにそうでしょ。
あ,怪しい言葉は業界にもあって,「スリッピング・アウェイ」っていうのも,英語では通じません。だって,普通に「Slip」っていったら,顔の向きを変えずにパンチを外すことを意味しますからね。
ですから,もし「Slipping Away」を英語で解釈するとなると,顔の向きを変えずに相手から離れるわけですから,たぶん,「スウェイ」と同様の動作になるものと思われます。カタカナでイメージする「スリッピング・アウェイ」とは異なるはずです。
では,「スリッピング・アウェイ」に相当する英語は何か,っていうと,語はありません。これ,文章でいいます。「当たり際に首をひねる」みたいにね。例えば「Twist his Neck」みたいなことをいうしかありません。Orlando Canizalesも,Genaro Hernándezも,「スリッピング・アウェイ」は使ってたかもしれませんが,「Slipping Away」は多用してません。
用語の問題でいうと,「キック」って言葉も誤用されちゃってるように思います。
この「キック」っていう言葉は,「キック・ボクシング」っていう競技を指す言葉であって,「蹴る動作」のことは指しません。いや,「キック・ボクシング」っていう競技がまったく想定されない場面であれば問題ないんですけど,「キック・ボクシング」っていう競技が想定され得るところで「キック」っていうと,それは「キック・ボクシング」っていう競技を意味します。
ところが,ある格闘競技雑誌の編集長だった人物が,総合格闘競技で「蹴る動作」を「キック」っていっちゃってたんですねぇ…。あれは,あまりにも「キック・ボクシング」関係者を軽視しすぎた表現でした。「キック・ボクシング」を,「ないもの」としてました。あり得ない表現でした。
ということで,「蹴る動作」を「キック」っていっちゃってる人を見たら,「『キック・ボクシング』は無視かい」って思っちゃっていいはずです。