「ファイター」は一般名詞

まぁ,筆者も含めて,頭をやられちゃってる人間が少なくない業界ですから,半ば仕方のない感もありますけど,この業界,非常に「和製英語」の多い業界です。ですから,日本人同士では通じる会話も,いざ外国人と喋ると,まるで通じないことがあります。喋らなきゃいいんですけどね。

例えば「ファイター」なる言葉。これは「戦士」っていう一般語でしかなくて,日本のボクシング業界では積極的に攻め込む選手を指してこう呼ぶものの,英語がわかる人と喋ると,そんな意味を成しません

こういうタイプの選手のことは,英語で「Brawler」とか「Swarmer」とかいいます。

あ,今,Google翻訳で試したところ,「Fighter」は「戦闘機」って訳されるようですね。

「戦闘機は勇敢に前進を続けたが…」って訳されました。それはそれで,いいような気もしますけど,ボクシングの話には見えませんね。

で,「Brawler」,「Swarmer」ですけど,それぞれ「Brawl」,「Swarm」という動詞に「人」を意味する「er」がついた語ですから,「Brawl」,「Swarm」を見てみましょう。

「Brawl」は,「ケンカ,口論,とっ組み合い」なんて訳されます。一方,「Swarm」は「群れ,うじゃうじゃした群れ,大群」ってな意味になります。

いずれも,御覧のように非常に手数の多い積極的な選手を意味することになります。

また,そんな積極的な選手で,かつ,破壊力のある選手に対しては,「Puncher」って語が用いられます。

ですから,「アイツぁ『Brawler』だねぇ」っていうのは単にタイプを指してるだけですけど,「あの選手は『Puncher』だね」っていったら,それは誉め言葉と解釈できます。

あ,あと,「Slugger」っていうのもありますね。

これは野球なんかでも使われる「スラッガー」,つまり,これまた「強打者」を指します。

一方,「Boxer」っていうのは,ほぼカタカナと同様に用いられます。巧いボクシングを展開する選手ですね。

ですから,ボクシングもするけど,倒しにもかかる選手に対しては,「ボクサー・ファイター」とはいわずに,「Boxer-Puncher」なんていうことが多くなります。「Boxer Fighter」って英語でいっても,たぶん通じないでしょうね。まぁ,それ以前に英語でボクシングについて喋る機会もないかもしれませんけど…。

そういえば,外人と英語で喋ってるときに疑問に思ったのが,もう1つありました。それが「クロス」です。

これ,日本では,相手の肩や腕の上を「クロス」するパンチを指すんですけど,英語では,単に「後ろの手で打つパンチ」のことを指すようでした。

ですから,「ワン・ツー」は,右構えであれば「ジャブ→右クロス」です。もちろん「ジャブ→右ストレート」でも通じますけど,このときの右は「クロス」なんですね。

例えば,懐かしのManuel Medinaの右のように,ほぼ体の回転を伴わない右の場合には,「クロス」って言葉は適用されません。が,右構えの右ストレートのほとんどが「クロス」なんですね。

サッカーやバレーボールなんかで,対角線気味にボールを入れることを「クロス」っていいますけど,ボクシングの「クロス」もこれで,何かの上を「十字を描く」軌道を通ることを意味するんじゃなくて,対角線気味に放たれるパンチのことを「クロス」っていうようでした。

そうなると,「クロス・カウンター」っていうものが指すものも変わってきそうです。

古典的かつ和式な「クロス」で「クロス・カウンター」を表すと,相手のジャブにかぶせるように合わせる右パンチ「のみ」を「右クロス・カウンター」って表現することになりますが,もっと広義に考えると,右パンチでカウンターをとれば,ほぼすべてが「右クロス・カウンター」ってことになります。

なぜ,そして,どこで,いつ,「クロス」って言葉が限定されちゃったんでしょうか…。

あ,そんなことですから,英語圏の指導者の下で訓練してると,わりと頻繁に「Right Cross!」っていう言葉が発せられます。もちろん,どこの上も通過しません。だって,英語では,十字を描くことを意味しないんですもん。