ちゃんと集計したわけではないんですけど,ボクシングの試合の半分以上は判定になることと思われます。あ,「この程度」のことは,やったとしても「集計」レベルであって,「統計」ではありませんよ。新宿事務所がCMで「統計」って言葉を使っちゃってますが,あの程度のことは「集計」であって,特に多角的な分析をしたわけじゃありませんから,「統計」にはならないはずです。
そういう意味では,「算数」が中学校から「数学」って名称になりますけど,あれも,どうだか,って感じがしませんか? あのレベルのことを「数学」っていっちゃうのって,恥ずかしくありませんかねぇ? ってことで,筆者は大学に行ってもずっと「算数」っていってました。だって,恥ずかしいんですもん。
判定に話を戻すと,現行の採点方法は「10-Point Must System」って呼ばれるヤツです。ここに誤解が生じます。
英語を母語とも公用語ともしない日本人は,この「must」を杓子定規に「~しなければならない」って解釈しちゃって,「10-Point Must System」を「どのラウンドも必ず点差をつけねばならない」って解釈しがち。これが大間違いなんですね。
テレビの解説者も,「今だと振り分けなきゃいけませんから」っていう旨のことをいうことが多いんですけど,そんな義務はありません。これ,ルール・ブックに明記されてますよ。「差がなければ10-10でいい」って。
実際のスコアでも,この「イーブン(10-10)」ってのは,つけられてます。もし点差をつけることが義務づけられてるとしたら,この時点で,そのジャッジは資格を失うはずですが,「あり」ですから,資格停止が行われることはありません。
例えば,昨年9月24日に行われたAnthony CrollaとJorge LinaresによるWBAライト級戦を見てみましょう。
あ,その前に,この試合,WOWOWでは「王座統一戦」って報じてましたけど,この時点ですでにLinaresはWBC王座を剥奪されてましたから,単なるWBA戦です。CrollaにLinaresが挑んだだけの試合であって,決して「王座統一戦」ではありません。
WOWOWはわかってるのかわかってないのか,誤りが多すぎますよねぇ。たぶんボクシング・ファンの多くが視聴してると思われますけど,誤りが多すぎて,教育上,最悪だと思われます。
で,Crolla-Linares戦で新王者となったLinaresですが,この試合は両者ダウンもなく,スコアは117-111,115-113,115-114でした。
全12ラウンドですから,最終的なスコアは「点差を義務づけられてる」と仮定すると,12点のマイナスがあることになりますけど,115-114っていうのは,合わせて11点しかマイナスがありません。つまり,1つのラウンドは10-10(イーブン)です。
具体的には,第9ラウンド。実はこの回,3名のジャッジの意見が割れてて,10-9,9-10,10-10になってます。見返してませんけど,たぶん競ったラウンドだったんでしょう。
ということで,最終的に115-114っていうスコアになりました。
じゃ,この「must」って何?
これは,どのラウンドも「必ず開始時には10点をもってる」ことを意味します。
ときどき「10点満点法」って訳されますが,これが正解。どのラウンドも優勢に進めた側が「10点」になって,劣勢側から減点がなされる,っていうのが正解です。
ちょっと採点方法を振り返りましょう。
その昔,ボクシングの試合の採点は「Round(s) System」って名前でした。
つまり,「とったラウンド」がどちらの選手が多いか,で,勝敗を決めたわけです。
15回戦だとすると,例えば選手Aが9個のラウンドを支配して,残りの6つのラウンドを選手Bがとったとすると,9-6で選手Aの勝ちになります。
でも,ここには「どの程度の優勢ぶりでラウンドを支配したか」がわかりません。そこで,ジョー小泉氏が訳書で「ダウンはホームランみたいなもん」って書いたことが適用されます。
つまり,ダウンをとられると2点の減点を食う,っていうことです。
これを書かずして「ダウンはホームランみたいなもん」って書いちゃってる小泉氏は,言葉が足らなすぎますね。グダグダと歴史を語るのが好きなクセに…。
で,まぁ,こうして,「5-Point Must System」っていうのに移行されます。有利に進めたラウンドは「5点」になって,不利だったら「4点」,ダウン食ったら「3点」,さらに減点を食ったりダウンを重ねたりしたら「2点」みたいなシステムです。
が,これだと,合計点が「5の倍数」になって,ちょっとわかりにくい,ってことで,「10点」に格上げになりました。
こうすると,12回戦だったら減点なしで「120点」になりますから,「5点満点法」よりも,わかりやすくなりますね。
というわけで,現行のシステムが完成します。
繰り返しになりますけど,「点差をつける義務」は,どこにもありません。まったくの互角と見れば「10-10」をつけちゃって問題ありません。実際,ついてますしね。
解説者の中には,実際に指導してる人物も少なくないのに,採点を理解してない,ってのは,問題ありすぎじゃありませんかねぇ…。こんなトンチンカンなヤツらが解説しちゃって,それを視聴者が鵜呑みにしちゃって,間違いが再生産されちゃうのも,大問題だと思われます。だって,多くの試合が判定になるんですもん。
ということで,「今の採点であれば…」とか,「無理矢理,振り分けると…」みたいにいっちゃってる解説者がいたら,「コイツ,知らねぇのか?」って思っちゃっていいでしょうね。
あ,これ,っていうか,現行のシステムで「イーブンあり」っていうのはルール・ブックに明記されてますから,今だと中学英語レベルで解釈できるはずですよ。
ってことは,テレビ局のスタッフ陣は,「その程度」の確認もしないで放送してることになります。元選手の解説者に「その程度」の英語力がないのは仕方がないとしても,テレビ局のスタッフは,一応,大卒なわけでしょ? だとしたら,放送前にチェックしとけよ,レベルです。読んでないんでしょうねぇ…。
多くの試合の決着をつける採点基準が,これほどまでに理解されてない競技って,珍しくありませんかねぇ? かつて柔道で「世紀の誤診」っていわれた事件がありましたけど,そもそも判定基準を理解してない人たち「ばっかり」ですから,「誤診」も何も,あったもんじゃないような気がします。わかってないんですから。そして,その,わかってないヤツが堂々と解説とか指導とかをしちゃってんですから。