「パンチに馴れる」の真意

これこそ,こういう概念こそ,経験者ヅラしてる解説者が詳しく解説する義務があるような気がするんですけど,してませんねぇ。単に見たことがないだけで,どこかで喋ってるんでしょうか? いやいや,だとしたら,ほぼ毎回のようにしつこくいうべきな気がするんですけどね。

「パンチに馴れる」っていうと,まるで効き目がなくなっちゃうような感じすらしますが,そんなことはありません

喩えていうなら,木を切る作業,みたいなもんでしょうか。空振りしちゃわない限り,木は確実に削られていきますよね? パンチもそんな感じで,どんなに馴れたとしても,効き目がなくなることはありません

では,何に馴れるんでしょうか…?

それは,タイミングです。

パンチに限らず,打撃に耐えるときには,瞬間的に息を止めたり吐いたりします。逆に,吸う瞬間に食うと,異常なくらいに効いちゃいます。

腹打ちを含むダブル・パンチを,「上(顔)→下(腹)」っていう順番で打つのには,この点で大きな意味があります。顔へのパンチを防御して,ホッとしたところに腹打ちを食い込ませると,その瞬間に息を吸ってたりするんで,バカみたいに効いちゃうことがあります。

しばしば,「初回に注意」とか,「初回は他のラウンドの倍以上に疲れる」なんてことをいいますけど,これが,息を止めたり吐いたりすることが増えるからなんですね。相手のタイミングがわかってない分,自分のペースで呼吸することができず,必要以上に「フンッ」をやるんです。だから疲れるんですね。

「パンチに馴れる」っていうのは,この「息止めタイミング」を把握していく,という意味なんです。

相手のアクションの開始からパンチが実際に当たるまでのタイミングっていうのは,わりと個人差があって,解説者がときどき「この選手のパンチは遅れて飛んでくるんですねぇ…」なんていうのは,この「息止めタイミング」がズレちゃったりすることが,実際,あるんです。すると,思わぬタイミング,すなわち,「息止めタイミング」ではない,逆に息を吸ったタイミングで食っちゃったりすることもあって,それで倒されちゃうケースもあります。

ただし,「息止めタイミング」でパンチを食ったとしても「まったく効かない」ということではなくて,ダメージは確実に刻まれます。でも,食う瞬間に「 フンッ」ができてるんで,「わりと耐えられる」んですね。効きますけど,我慢しやすい,っていう感じでしょうか。

ボクシングのラウンドが3分しかないことを,嘲笑する向きがありますけど,「自分のタイミングで呼吸ができない3分」っていうのは,非常に苦痛です。

例えばサッカーは45分ハーフですが,あれは,自分のタイミングで呼吸ができるでしょ? まるでボールが来てなければ,深呼吸さえできます

でも,ボクシングはそれが不可能です。ラウンド進行中に深呼吸でもしようもんなら,たぶんボッコボコにされるでしょうからね。

大切なのは,呼吸です。呼吸のタイミングが自由にならないからこそ疲れたり深いダメージを負ったりすることになります。

逆に,相手の呼吸の「裏」を突くことができれば,非常に大きなダメージを相手に与えることができちゃうことになりますよね?

それをするのが,速いパンチだったり,速いコンボだったり,というわけです。

とはいっても,最近はコンボの意味が理解されずに,単なる体操みたいになっちゃってる感もありますけどね。

外国の選手とか,日本では大橋秀行選手のお弟子さんたちが左フックのダブルを「上→下」っていう順番で打つケースが目立ちますが,これは,相手にとって呼吸を乱されやすくなって,大きなダメージにつながりやすくなります。場合によっては,2発目の腹打ちで悶絶することになります。これこそまさしく,呼吸を乱すコンボなんですね。

というわけで,意外なタイミングのパンチは意外なほどに効くことがあります。また,ボクサーはそんなタイミングを狙おうとします。

「パンチに馴れる」っていうのは,パンチを食うときの「フンッ」のタイミングを把握する,っていうことです。

解説者,ちゃんと,そういえよ。