まるで「アボガド」

20世紀のことになりますけど,作家の佐瀬稔さんが亡くなりましたね。その佐瀬さん,亡くなるなる最後までずっと,ニカラグアの「Alexis Argüello」を「アルゲリョ」って誤ったまま亡くなりました

これには,2つの大きな問題があります。

1つは,佐瀬さん御自身が,「その程度」の初歩的なスペイン語の読みを学ばなかったこと。「Argüello」は「Arguello」と違って,「u」の上に点々がつきます。これは,スペイン語の授業を受けたならば,たぶん最初の時間に習うようなことで,「gue」は「ゲ」のように読みますけど,「güe」は「グエ」のように読む,ということを,日本語でいえば「あいうえお」くらいのレベルで学ぶんですね。園児未満の初歩中の初歩です。

佐瀬さんは普通に英語も読めた方のようですから,そのくらいの初歩のスペイン語の読みくらい,身につけるべきだったように思います。でも,それを怠っちゃったんですね。で,「アルゲリョ」と。大間違いです。だって,「あいうえお」を間違っちゃってるレベルですもん。

で,もう1つは,スペイン語ができることになってる人物が,「Argüello」を「アルゲリョ」と紹介し続けちゃってること。

実は当方も,ボクシング・ファンと喋ってて「Argüello」の話になったことがあるんですけど,そのときも「あのアルゲリョの左フックときたら…」みたいなことをいわれて,「あ,コイツも洗脳されちゃってんだな」って思ったものです。ここまで来ると,「洗脳」っていうレベルでいいんじゃないかと思われます。

と思って,さっき「Wikipedia」を見たら,ちゃんと「アレクシス・アルグエーリョ」とも書かれてましたね。これが正解。「アルゲリョ」は哀しいくらいの誤りです。

もう来日して何十年も経ってるアグネス・チャンさんの日本語を嘲笑する方も少なくないかと思われますけど,「Argüello」を「アルゲリョ」っていっちゃってるのは,そんな感じかと思われます。嘲笑されても仕方のない誤りでしょう。

何年前のことか忘れましたけど,確か『Ring』誌に,「『Ar-Gway-Yo』って発音してね」ってなことが書かれてました。あ,あの「スペイン語が喋れることになってる人物」って,『Ring』誌の通信員もやってませんでしたっけ? 何でしょうか,『Ring』誌も完全無視なんでしょうか?

そういえば,「睾丸」が元になったらしい果物のことを,最近ではきちんと「アボカド」って表記されるようになりましたが,今もなお「アボガド」っていう向きがあるでしょ。これも間違いで,「アボガド」をアルファベット表記すると「abogado」になるんじゃないかと想像されますけど,これはスペイン語で「弁護士」っていう意味になっちゃいます。

「昨日,食べたアボガド,最高によかった」なんていおうもんなら,たぶん,かなりの下ネタになっちゃうんでしょうね。

一方,正しい「アボカド」は英語で「avocado」って綴ります。こちらが正解。ですから,「アボガド」っていっちゃってる人を見たら,「いいたいことはわかるけど…」って,気の毒に思っちゃっていいかと思われます。

英語に馴れちゃうと,ちょっと「とっつき難さ」があるかもしれませんけど,憶えてしまえば表記のみから発音がわかりますから,その点で英語より簡単でしょう。だって,英語は綴りから発音がわかるわけではありませんもんね。アクセントの位置も発音も,語によって変わりますから,そういうテストが可能になります。

では,スペイン語の「g」が入る音を並べてみましょう。

「gua」は,すべて「グア」っぽい音になります。

例えば,国名の「Nicaragua」なんてのは,「ニカラグア」っぽく読むのが正解。これは「ニカラーガ」のようには読みません。

続いて「gue」は,「ü」じゃなければ,「ゲ」っぽく読んじゃいます。

「Miguel」は「ミゲール」,「Rodríguez」は「ロドリーゲス」みたいに,ともに「ゲ」みたいな感じですね。あ,「Rodríguez」って語は,御覧のようにアクセント記号が明示されてますんで,カナでそのまま「ロドリゲス」っぽく書くのとは違う位置にアクセントがありますから御注意ください。

一方,「Argüello」は「ü」ですから,これは「グエ」のように読むのが正解。これを「アルゲーリョ」みたいにいっちゃうのは,クセが強いんじゃなくて,誤りです。

「gui」は,お馴染みの「Guillermo Rigondeaux」とか「José Antonio Aguirre」なんかに見られるように,「ギ」みたいな音になりますが,これまた「güi」だと「pingüino」で「ペンギン」っていう意味の語ですね。

ザーッと調べたところ(ちゃんとは調べてませんが),「güi」の入る世界王者は見当たりませんでした。

「guo」も世界王者から見当たらなくて,例えば「antiguo」なんて単語に使われてましたね。これは英語にすると「ancient」とか「antique」とかいう語に相当します。

というわけで,「Argüello」を「アルゲリョ」と発語してしまう人を見たら,「コイツ,間違ってんだけどなぁ…」って思っちゃいましょう。

あ,そうそう。スペイン語が喋れることになってるあの人物のビデオ中でArgüello本人が「Hi, This is Alexis Argüello!」って自己紹介してるんですけど,それも完全無視なんでしょうね。